透明な壁
母からのLINE、それは…
義妹に子どもが生まれた、という喜びの報告だった。
両親にとっては初孫だし、ようやくできた子どもだったから、皆んなとても幸せそうだった。
もちろん、私もスゴく嬉しい。
だけど、その連絡を受けたとき、
自分でも訳が分からないほど動揺してしまった。
なんだか急に悲しくなって、ポロポロ泣きながら家に帰った。
若い頃は子どもを欲しいと思っていなかったし、子どもをもちたい奥さんと、そのことで何度か話し合いやケンカをした。
奥さんと長くいるうちに、子どもがいる人生もありかなと思い始めて、Lカップルの妊活コミュニティの勉強会に行ったりもしたけど、そんなに積極的ではなかった。
そんな私が、なんで泣いてるのか分からない。
帰宅して、なぜかトドメに『チョコレート・ドーナツ』(ゲイカップルが育児放棄されたダウン症児を育てる話。)を見て大泣きし、スッキリしたところで考えてみた。
赤ちゃんが生まれて、これから実家はとてもハッピーなのに、私や奥さんは、そこに加われない気がして、とても寂しかったのね。
被害妄想といえば、そうなんだけど…。
結婚式以来、クリスマスとか正月とか、家族が集合する場には、弟も私もそれぞれのパートナーを連れて行っていたから、こう、樹木の枝のように、家族が一族になって広がっていく感じが楽しかったの。
だからこそ、弟夫婦とちがって、ここから先にはいけませんって壁を、突きつけられた気がした。
私と奥さんの子どもは、幸せな空想の中の、フワッとした存在のまま、現実にはならないのだろうなと悟った。
そして何より、弟夫婦のおめでたを、100%素直に喜べない自分に失望した。
物件探しやマンション購入や入籍のときみたいに、何かをしようとすると、そこに透明な壁が現れる。人生の選択肢を阻む壁。
妊活を諦めたのも、ドナーの問題があったからだ。
海外のように精子バンクを利用することが難しい日本では、
① ゲイのカップルにもらったり、共同で子育て
② 兄・弟など肉親からもらう
③ ボランティアの精子ドナーからもらう
の3択がポピュラー。
信頼できるゲイ友がいるわけじゃないし、弟からもらうには義妹の気持ちもあるので、ちょっと難しい。
残りは③ということになるけど…
これには、私はかなり抵抗があった。
まず、素性の知れない人が、何の目的で精子を提供しているのか分からない。感染のリスクもあるし。
さらに、海外では精子ドナーは○人までしか精子を提供してはいけない、という決まりがあるのに、日本は野放し。
中には、正しい知識と素晴らしい人格をもったドナーの方もいるかもしれないから、一概には言えないけれど。
やはり自分が心から信頼し、人間として尊敬できる人にドナーになって欲しかった。
だけど、こんな重大なことを気安く人に頼めるわけもなく…
私たちは何度か泣きながら話し合って、
子どもをあきらめた。