お砂糖ひとさじ

同性カップルの妊活の記録

コロナで嗅覚・味覚障害になった話

コロナに罹って嗅覚・味覚障害を併発してしまったので、誰かが同じ目にあったときのために、記録を残しておく。

 

3年間 逃げ続けたコロナに、ついに罹ってしまった。

きっかけは職場の施設でパンデミックが起こったことだった。

第9波の感染爆発で人員が足りないという理由で陽性の職員がN95を付けて出勤していたり、5類になったからという気の緩みで、院内の感染対策もヤワヤワになっていたので、そりゃ広まるよなという状況だった。

 

喉の違和感から始まり、発熱と扁桃腺の腫れというお決まりのパターン。

風邪よりはちょっと辛くて、インフルエンザほどではないという印象だった。

ワクチンは打っていたし、喉は痛かったけど別に日常生活に支障はなく、有給で何日も自宅待機させられる方が苦痛だった。

ご飯も普通に食べていた。

 

もう数日で職場復帰というタイミングで、鼻に違和感を感じた。

 

朝、コーヒーを淹れようとしたら、なんとなく香りが遠い気がする。

その時は「鼻がつまっているのかな?」ぐらいに思っていたけれど、次の日には全く匂いを感じなくなっていた。

首に塗っていたヴェポラップのきっついハッカ臭が無臭になった時、心底ゾッとした。

普通の風邪と違って鼻がつまっているわけではなく、鼻水すら出ていないのに何の匂いもしないのが異様だった。

 

さすがに怖くなって嗅覚障害について調べたら、感冒症状で嗅神経が傷ついてしまうと難治性であることを初めて知った。

 

いま流行ってるコロナ株が味覚・嗅覚障害を引き起こしやすく、後遺症外来が患者で溢れかえっていることも。

どちらもニュースなどでは全く報道されていない事実だった。

 

嗅覚に異常が出れば、もちろん味覚にも影響する。

食べ物の味が一変した。

しょっぱさや甘さは感じるが、何を食べているかよく分からない。

コーヒーやお茶が苦い水に感じる。

 

よく漫画とかで、ヴァンパイアに変えられた人間が血以外の食べ物を一切受けつけなくなるシーンがあるけど、まさにそれだった。

 

世の中の食べ物が、全て不味くなった。

 

美味しい匂いがしないと満腹中枢も働かないので、短期間で体重が数キロ減少した。

 

あんなに好きだった料理が作れなくなった。

食材やスパイスや調味料の香りがしないので、味つけの「完成」が分からない。

キッチンに立つと、そこにあるはずの香りが失われているのが痛いほど感じられて、ただただ恐怖だった。

 

 

食事以外にも変化が現れた。

 

元気なときは気づかなかったけど、人はさまざまな環境臭に囲まれて生活している。

トイレに入れば芳香剤の香りがするし、バスルームは洗濯洗剤やシャンプーの匂いがする。

 

朝の風の匂い、電車の中の人と埃の匂い、帰宅したときのホッとする玄関の匂い…

 

そういう空間の香りも全て失われたので、外界が薄いヴェールで覆われたような感覚に陥った。

 

なんだか現実感のないバーチャルな世界に入り込んでしまったような感じ。

 

地味に辛かったのが、パートナーの香りも分からなくなってしまったこと。

あの何とも形容しがたい、柔らかくて甘い玉子焼きみたいな安心する香りが失われたのは少なからずショックだった。

 

職場復帰して数日経っても、嗅覚・味覚も損なわれたままで、「コロナ治って良かったね。」と周りに言われるたびに不思議な気持ちになった。

 

このままずっと薄らぼんやりとした世界で、風味のない食べ物を食べて生きていかなくてはならないのかと思うと、絶望的な気持ちだった。

 

コロナの後遺症外来を調べてみたが、どこも数ヶ月先まで予約が埋まっている状況で、コロナ明けを謳う世間のムードの裏側に、問題を抱えた人がたくさんいるのだと知った。

 

 

私はともかく足掻いてみることにした。

 

嗅神経について調べ、「嗅覚刺激治療」というリハビリをはじめた。

嗅神経が完全に傷んでいなければ、嗅神経細胞は再生するはずなので、それにかけてみるしかなかった。

手当たり次第にいろんなものを嗅いでみて、香りの再構築を図った。

新しく生まれた嗅細胞は匂いの入力がないと神経回路に組み込まれずに細胞死に至るという文献もあったので、嗅覚刺激はやはり大事なようだ。

 

100円ショップでアロマオイルを買ってきて嗅ぎ分けたり、手にするもの全ての香りを1つ1つ確認していった。

 

キッチンにも無理矢理立った。

幸い身体には今までの感覚が残っているので、目分量で味付けもどうにかできることが分かった。

キーマカレーや生姜焼きなど、香りがイメージしやすいメニューを選んで作っていた。

 

食べても味がわからない物を作るのは苦痛だったけど、慣れ親しんだ感覚を取り戻そうと必死だったのだ。

 

調理には色んな匂いが伴って段階的に変化していくので、嗅覚のリハビリとしては結果的にこれが一番良かったのではないかと個人的には思う。

 

 

 

こうして数日が経ち、外出先でレストランの前を通ったとき、鼻先を美味しそうな匂いが一瞬かすめた。

モノクロの世界にジワっと絵の具が滲んだような感覚。

 

その夜、Tシャツを頭から被って着たとき、懐かしい柔軟剤の香りを僅かに感じた。

 

その日を境に嗅覚は少しずつ回復し、はじめは歪だった食べ物の味もだんだん清明になってきた。

 

ずっと無味無臭だった麦茶の味が分かったときが、この夏一番のハイライトだった。

 

それからもリハビリを続け、少しづつだけど香りと味を取り戻しつつある。

けれど、あの経験は本当に恐ろしいものだった。

 

 

今回の件で学んだことは、

 

◾️ともかくコロナに罹らないように自衛する。

 

コロナは風邪とは違う。

 

コロナに罹って嗅覚・味覚障害が出るかは運次第。

感染した時点で嗅覚・味覚脱失のガチャが勝手に回ってしまう。

一度罹って大丈夫だったとしても、2回目も大丈夫だという保証はどこにもない。

 

ウイルスによる嗅覚・味覚障害は難治性で、ダメージの程度によっては重い後遺症が残る。

 

嗅神経のメカニズムは未だに解明されていない部分も多く、治療法も確立されていない。

 

いま流行っているコロナ株は嗅覚・味覚障害が出やすい。

世の中のムードに惑わされず、しっかり感染対策を続けた方がいい。

 

ワクチンは打てるもんなら必ず打っておく。

 

 

 

もし運悪く嗅覚・味覚障害になってしまったら…

 

◾️なるべく早く嗅覚のリハビリを開始する。

 

数種類のアロマオイルやコーヒー、ミントなどを嗅ぎ分ける。

1つのものだけを嗅いでいると鼻が慣れてしまい香りを感じにくくなるので、いろいろなタイプの匂いを嗅いだ方が良い。

嗅神経を刺激して嗅細胞の再生をできるだけ促そう。

 

記憶と匂いは脳機能的にも密接な関係があるので、香りをイメージしやすいものを嗅ぐと、匂いが復活しやすかった。

 

鼻がつまっていると香りを取り込みにくいので、これを機に鼻うがいにも挑戦してみた。

入浴時にやると、大失敗して周りがビショビショになっても平気なので良いと教えてもらった。

 

食事は日常において最もたくさんの匂いを感じる時間なので、なるべく色んな種類の香りを確認しながら食べていた。

作らなくてもいいけど、できるだけバリエーションを豊かにするのが効果的だと思う。

 

温かいスープや飲み物は香りが蒸散するためか、嗅覚障害が強いときも風味を感じやすかった。

味覚を回復させるために亜鉛のビタミン剤をとっていた。

入浴時も匂いを感じやすいので、シャワー浴を止めて湯を張り、入浴剤を日によっていろいろ変えて入った。

 

「当帰芍薬散」という漢方が嗅覚障害に効くと聞いて飲んでみたけど、短い期間では効果はいまいち分からなかった。

効く人には効くのかも。

 

 

 

◾️2週間経っても全く改善がみられないときは、すぐに耳鼻科を受診する。

 

嗅神経自体が大きなダメージを受けていると約1~3ヶ月で回復は難しくなるので、早期に精査と専門的な治療が必要になる。

まずは早めに病院へ行った方がいい。

 

嗅神経のメカニズムは未解明の部分も多いが、嗅神経細胞は中枢神経細胞としては珍しい再生能力をもっているので、放置せずに根気よく治療をつづけるのが大事だと思う。

 

 

 

最後に、ごはんを美味しく食べられるというのは、本当にありがたいことなのだと改めて感じた。

人は『味』を食べているのではなく、『風味』を食べているのだと。

 

 

みんな!とくに食いしん坊は、なるべくコロナに罹るなよ!