お砂糖ひとさじ

同性カップルの妊活の記録

2019 宇宙への旅

 

人工授精の当日の朝、ドナーファミリーと最寄り駅で待ち合わせして精子を受け取った。

奥さんも有休で付き添ってくれたので心強い。


人工授精についてはいろいろ事前に調べていたけど、最後まで心配だったのは『痛み』。


これには個人差があるみたいで、足台から転げ落ちそうになるくらい激痛の人もいれば、入ったのが分からないくらい無痛の人もいるらしい。

双角子宮の人は少し痛いかも…って、先に言われていたのでかなりビビってた。


よみがえる卵管造影の恐怖。


そんなこんなで、前日からブルーだったのですが、ドナママさんから「頭の中がずっとコレです。」って送られてきた画像 を見て吹いた。


まさかのアルマゲドン。笑


そうだよね。今回から精子も精鋭部隊がミッションに当たるのだもの。

私も脳内BGMがエアロスミスになったわ。

 

壮大なスケールに思わず笑っちゃって、緊張がほぐれた。


受付で精子カップを渡し、待つこと約1時間半。膀胱に尿が溜まった状態の方が管が入りやすいって聞いていたけど、直後にトイレへ行きたくなってもイヤだなと悶々。。


こうしている間にも、NASAによるエリート飛行士の選別テストが行われていると思うと、気が気じゃない。


こんなに時間が経って大丈夫なのかソワソワし始めた頃に処置室へ呼ばれた。

 


 穏やかな雰囲気の先生が担当で、ちょっとラッキー。

おっかなびっくり診察台に上がると、先生が「旦那さんの精子は全く問題ないですね〜」と教えてくれた。


さすがドナパパさん。

選りすぐりの精鋭部隊は、運動率が90%越えでした。ヴァンダム級の軍人がスタンバイしたということか。


むしろ、ここまで屈強なヤツを揃えて妊娠しなかったら、逆になんなんだ。

もう生物学的に無理な気がする。

 


そして、肝心の痛みですが…


まさかの 無痛!!

 


卵管造影では気を抜いてて地獄の苦しみを味わったので、今回は全身全霊で痛みのビックウェーブに備えていたのに、拍子抜けなくらい無痛。

 

「…はい、終わりましたー。」


え??   いつ???


ってくらい何もなかった。


先生が上手なのかな…?
卵管造影剤で子宮口が通ったから…?


ともかく、痛くないに越したことはない!


お会計もスムーズに終わり、来た時とは正反対に晴れやかな気分で外へ出る。

 

待っていてくれた奥さんやドナパパさんとママさんと合流し、前から行ってみたかったカフェでランチした。

いつもは通院で平日休みが潰れると悲しくなるけど、この日は何だか楽しかったなぁ。

 


新しいことに挑戦するビクビクとドキドキとワクワク。

一緒に分かち合える人がいるって嬉しいな。

 

 

はじめての人工授精

 

病院で排卵のタイミングをみてもらい、シリンジ法で2回試したけど、結果は妊娠せず。

人工授精にトライすることにしました。

 

通常は病院でのタイミング法を6回くらい試してから、人工授精にステップアップするみたい。まあでも年齢と卵管造影検査のゴールデンタイムを考えたら妥当かな。


あのクッソ痛い思いして手に入れたボーナス期間は、無駄にしたくない!!


これまで通っていた病院は、旦那のことをほとんど聞かれずストレスフリーだったけど、先生が1人しかいなくて、予約が取りづらいのがネックだった。

なのでステップアップにあたり、たまたま見つけた別の産婦人科へ移ることにした。

 

人工授精になると、指定された日時でドナパパさんから子種を受け取らなければならないので、互いのアクセスが良い場所にしたかったのも理由の1つではある。

 

オフィス街にある病院は、待合室もちょっとしたカフェみたいでおシャンティ。夫同伴で来てる人が多くて、ちょっと驚いた。

でもこの雰囲気なら、男性が来やすいのも分かる気がする。

 


人工授精の流れとしては…


生理10日目ぐらいに受診し、エコーで卵胞の大きさをチェック。

卵胞の育ち具合によって再度受診し、卵胞の成長を促す注射。

排卵誘発剤を注射。

精子を洗浄・凝縮して、子宮内へ入れる。

 


大まかには、こんなでした。

注射の度に受診しなきゃいけないのと、人工授精の日程に合わせてドナパパさんと私の休みを調整しなきゃいけないのが、なかなかに大変。


卵の育ち具合で日程が前後するし、排卵誘発剤を打つと36時間以内には排卵してしまうので、『◯日の夜か、△日の朝』のように、病院へ行く日が指定される。


仕事との兼ね合いが難しいな。

忙しい中、スケジュールを合わせてくれるドナパパさんにも感謝しかない。


日程調整のストレスとは別に、人工授精前のホルモン注射や排卵誘発剤にも、ちょっと抵抗がある。

 


これはたぶん、私がXジェンダーゆえの悩みなのですが…

いつもの自分は「やじろべえ」のように、女性と男性の間をユラユラと絶妙なバランスで渡り合ってる。

どちらでもあって、どちらでも無い。


自分がXジェンダーだって気づく前から、生理中は身体が丸みを帯びたり、胸が張ったりして、何となく女性寄りになるから、少しばかり憂鬱だった。

 

妊娠は当たり前だけど、100%女性的なもの。

産婦人科の内診、ホルモン注射や排卵誘発剤は、この「やじろべえ」の女性側が重くなる。


傾いた「やじろべえ」は、何とも居心地が悪い。

でも我慢できないわけじゃない。

 


複雑なお年頃なの。

 

 

 

 

海賊人生


ちょっと前に若い子から相談ごとをされた。


自分のセクシャリティと、同性の恋人との未来について。

 

その人望の無さから、滅多に人生相談されない私ですが、彼女がまるで昔の自分みたいで、なんだか微笑ましい感じがしたわ。

本人は悩んでいるのだから、失礼な話だけど。


『この生き方を選んで、幸せになれるのか分からない』

 

『自分といると、彼女が幸せになれない』


昔どっかで聞いた(言った)ことあるフレーズ。

LGBTの認知度は数年で格段に上がったし、パートナーシップ制度なんかもできたけど、結局、若い子たちがぶつかる壁は変わってないのね。結局はそこか〜、みたいな。

 

私のこと、奥さんのこと、2人と家族のこと、これまでのこと…

いろいろ話した。

 


船乗りになりたい若者に酒場で出会った海賊、みたいな気分になったわ。

 

ほの暗い大海を前に、立ち尽くす気持ちは良く分かる。

地図も無ければ、ロープの結び方も分からない。あるのはコンパスと装備が十分とはいえない小さな船。


本当に方角が分かってんのかイマイチ怪しい一等航海士を連れて、不安なまま着水した昔が懐かしい。

 


少年…
何も見えないと思っていた黒い海も、目を凝らしたら、波の間を進む船が何艘もいることに気づくはず。


そしてその船には地図にはない海を旅してきた海賊たちが乗っているのだよ。

みんな片手に自分で描いた地図を持って。

 

それをつなぎ合わせたものを頼りにして、また別の船が旅に出る。

 


潮の流れが知り尽くされた航路を外れるのは、勇気がいること。

でも別の海流にのったら、まだ誰も見つけていない景色やお宝に出会えるかもよ。

 


私もいつかメリル・ストリープ級の貫禄で、分厚い地図をポンと若造にくれてやりたいわ。

 

 

LGBTQと病院

 

同性婚訴訟関連で、最近たまに話題になっている病院でのLGBTQ対応について。

ブログやSNSでいくつか気になることがあったので、書いておきます。

 

よく見かけるのは、


パートナーが病室に入れない。
病状が聞けない。
治療や生命維持の決定や判断ができない。

という意見に対して、


そんなことないんじゃない?
大袈裟だ。
パートナー証明や公正文書など、事前に準備や対策をしていないのが悪い。

 


と、LGBTQ内でも意見が対立する図。


もちろんケースバイケースだとは思うけど。

これまで勤めていた病院や、いまの病院での過去の事例をふまえながら、シュミレーションしてみました。


まず大前提として、

病院は個人間の厄介ごとを避けたい。

 


まあ、医療訴訟も多い世の中ですから、よりトラブルが少ない安全な選択肢に日和ます。


残念ながら。

 


① パートナーが病室に入れない

パートナーが意思表示できない状態で、相手の家族が面会を拒否したら、ブロックされる可能性大です。


過去に患者の恋人と名乗る人が家族から「本人にとって不利益だから、会わせないでくれ」と言われ、面会不可になった例がありました。


2人の関係性を説明できるパートナー証明や公正文書がなければ、家族の決定を覆すことはなかなか難しいと思います。

 


家族が拒否した場合、法的な効力がないパートナー証明がどこまで役に立つのか…


ちょっと気になるなぁ。

 

病状の説明に関しても、キーパーソンにならない限りは難しいかと。

昨今は病院も個人情報保護に神経質になっているので、うちの病院では家族以外が面会に来た場合、患者の部屋番号を知らない人は中に入れないようになっています。スタッフも聞かれても教えないようマニュアル化されてます。


つまり、本人が部屋番号を伝えられない場合、家人から教えてもらえなければ、病室に入れないということ。そりゃ中には面会フリーパスなゆるい病院もあるだろうけどね。

 


② 治療や生命維持の決定や判断ができない。

本人の意思の確認ができない場合、通常は家人が生命維持の判断をします。

 

パートナーと家人で意見が割れた場合…

前述のように2人の関係性を証明するものが無ければ、病院は家人の決定を優先するでしょう。

パートナー証明書などがあった場合、病院は巻き込まれたくないので、「身内でよく話し合ってください」と一抜けします。

そうなるとパートナーの意見を通すのは現実的にはかなり厳しいのではないかと思います。


こうやって考えていくと…


病院でのトラブルに関しては、相手側の家族と良好な関係でない場合は、事前に本人の意思を残す対策した方がよい。というのが結論かな。

 

これが『配偶者』となれば、何も心配することないのにね。

 

 

サニースポット

 

先日、こどまっぷさんのピクニックに参加させてもらいました。

はじめての新宿御苑は思ってたより広くて、新緑がキラキラと眩しかった。


我われはドナーファミリーと一緒に参加。

めっちゃインドア派なので、ピクニックなんて久しぶりで、何を持って行けば良いのか分からなかったわ。笑


ドナパパさんの手づくり卵サンドとチョコチップ入りのスコーンが美味しかった。ママさんのピクルスも。

お二人とも料理上手で羨ましいな。

 


そういえば、女性同士のカップルである私たちには、家事の役割ってもんが無い。

得意な方や、手が空いてる方がやる。


同性と暮らしてると、いかに世の中の人たちが『男の』『女の』役割に縛られて生きているかよく分かる。

みんなそれを当たり前に受け入れているから、職場でも同じように振る舞うのね。


たまにカルチャーショックを受けることがある。


でも、ドナママさんとパパさんには、あまりそれを感じない。

だから親近感があるのかも。


ピクニックには本当にいろんな家族がいた。


精子ドナーを探して子どもを産んだLカップ

私と同じFTXで出産した方

海外の精子バンクを利用した方

FTMと女性のカップルでお子さんのいる方


バリエーションがカラフルすぎるけど、どの家族も幸せそうで、なんだか嬉しくなっちゃった。

 

みんな違って、みんな良い。

まさに、その通り。


隠れ産婦人科通いのキツさとか、妊娠・出産に対するFTXの葛藤とか、話せて少し楽になった。相談できる場所があるのは、なんとも心強い。妊活仲間もできたしね。

 

小さな村みたいな安心感のある空間だった。

多種多様だけど、誰も相手を否定しない居心地の良さ。

 


こういうのをサニースポットっていうのかな。

 

精子バンク

 

先週末 とても行きたいセミナーがあったのだけど、お宮参りとバッティングしちゃって断念。

 

デンマーク精子バンク Cryos の会長が来日して、LGBT 向けに講演をしたのです。

NOWな話題だけに、聞いてみたいことも沢山あったから行きたかったな。

 

以前は日本にも精子バンクがあったら便利だなぁと思ってた。

後ぐされないし、そもそも父親を必要としているわけじゃないから、遺伝的な情報や容姿や能力だけ分かれば十分だなって。

 

でも、トライを続ける中で、精子提供についての考え方は大きく変わった。私も奥さんも。

 

もし、いま日本で精子バンクができたとしても、私たちは利用しないだろう。

もし我われが頼んだら、弟は精子提供を了承するかもしれないけど、それもするつもりはない。

 


なぜならドナーファミリーが私たちにとって、それだけ大きな存在だからだ。

仮に、妊娠にドナーチェンジが必要になったとしても、それなら妊活は終わりで悔いはない。

 

 

この人たちとだから、家族になりたい。

この人たちとなら、新しい生命を育んでみたい。

そう思うようになった。

 


いやもう赤ちゃんが生まれようが、生まれまいが、親戚なんじゃないかと感じてる。

 


だって毎月、私のお腹にいるかもしれない子について考えてくれるんだよ。

これがファミリーじゃなくて、何なのか 。

 

 

ドナママさんの「大家族でBBQをしたい!」って夢に加えて、「旅の終わりには皆んなで温泉旅館に泊まって、夜は宴会でかくし芸大会をしたい」っていうのが私の目下の野望。


 

お宮参り

 

この週末は里帰りして、姪っ子のお宮参りに行ってきました。

 

母さんから「お宮参りに2人で来ない?」って聞かれたときは、ちょっと驚いた。

義妹のご両親も来る場所に、我われも参加していいのかなって。


結婚式前に、弟が義妹のご両親に私たちのことを話したのにもビックリしたけどさ。


LGBTという言葉が当たり前に使われつつある昨今でも、田舎の風当たりは厳しいことを知っているので、てっきり存在を消されると思っていたんだよね。


事実、父さんは私が結婚式を挙げたことを、ひた隠しにしているし…。

 

 


弟のおかげで、私と奥さんは親戚の中でも『無かったこと』にされず、行事に呼んでもらえている。

これには本当に感謝してるんだ。

 


ただ、今回はちょっとばかしタイミングが悪くて… 

先月のトライがダメだったことが判明した直後だったのね。


私はそんなもんだろって感じだったけど、卵管造影検査後で尚かつ排卵日を確実にとらえた挑戦だったので奥さんがかなり落ち込んだから、こんなときに生まれたばかりの赤ちゃんを見せるのも酷だなって思った。

 

だから、辛かったら断るよ?って声をかけたのだけど、「せっかく家族の一員として呼んでくれたのだから、どうしても行きたい!」と言うので、はるばる故郷までプチ旅行することにした。


着いて早々に義妹のご両親に初めて奥さんを紹介した。


テンパった私は、勢いあまって奥さんを「妻です!」って言って、場をざわつかせたけど。笑

 

「パートナーです。」って言えばよかった。


そして、リアルな姪っ子とご対面。

もう新生児っぽさはなくて、プクプクしてた。

 


私の心配を他所に、奥さんは赤ちゃんを抱かせてもらって、満面の笑みであやしてる。


ふと周りをみれば、お祖母ちゃん'Sや弟、父まで、赤ちゃんを構いたくてワラワラと集まっていた。

 


年齢や立場の差を超えて、『赤ちゃん可愛い、赤ちゃん尊い』という謎の一体感が、そこにあった。

 


推しが一緒のファンの連帯感というか…


出産祝いに贈ったダッフィーのステイも使ってくれて嬉しい!

ミルクを飲むと、バンザイポーズのまま寝ちゃうの。わが姪っ子ながら可愛いのぅ。

 


神社でお祓いをしてもらった後は、温泉旅館へ移動。

宴会前、温泉へ順番に入ろうと思ったのだけど、赤ちゃんをお風呂に入れるのって、とても大変なのね。


弟の帰宅が遅いため、いつもは義妹が1人で入れているとのこと。


よく考えたら、目が離せない全介助の人間を1人で入浴させるわけだから、自分が湯につかる暇がないわ。

他にも3時間おきにミルクあげたりとか、これってワンオペじゃ気が狂いそう。


うーん、まだまだ私も勉強不足だな。


奥さんは赤ちゃんの入浴も手伝わせてもらって、なんか楽しそうだった。

 

 


夜は「THE・中居さん」って感じのベテラン女将に仕切られながら、お座敷で夕飯。

リセット直後だったので、心おきなく酒が飲めて何よりでした。久しぶりに鯉も食べたわ。


一泊2日の旅だったけど、行って良かったし、気持ちもリセットできた気がする。

 


そうそう、お宮参りのときに、こっそり引いたおみくじ。


照りつづく 日かげなやみし 小山田に

うれしく そそぐ 夕立ちの雨

 


枯れ果てた田の苗も、夕立の雨にあって再び生き返り、秋の収穫も心配なく見込まれるような運。

何事も正直にし、他人を恨まず仕事に励むこと。

 


この一発逆転な感じ、嫌いじゃない。笑